2024年03月14日更新
佐藤天彦 将棋 ノーマスク

【全文書き起こし】対局中にマスクを外し反則負けの佐藤天彦九段が不服申し立て!規定見直し、再対局を要求

 将棋の名人戦A級順位戦の対局で、マスクを長時間外して反則負けと判定された佐藤天彦九段(34)が1日、判定の取り消しと対局のやり直し、マスク着用に関する規定の見直しなどを求め、日本将棋連盟の理事らで構成する常務会に提訴した

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 将棋連盟は、10月28日の対局で佐藤九段が2回にわたって約30分間マスクを外していたとして、マスク着用を義務づけた臨時対局規定に基づき反則負けとした。規定では、判定に不服があれば対局から1週間以内に提訴できるとされ、佐藤九段はこれに基づき提訴した。

 申立書で佐藤九段は、一定時間マスクを着用していなかったことを認め「対局相手の集中力を削(そ)ぐような影響があったとすれば大変遺憾であり、対局相手の永瀬拓矢王座にも迷惑をかけた」と謝罪。その上で、反則負けの判定は「規定の解釈を誤って適用され、著しく相当性・公平性を欠いている」とした。
引用元:mainichi.jp(引用元へはこちらから)

以下全文

 私、日本将棋連盟所属棋士佐藤天彦は、2022年10月28日のA級順位戦の対局において、日本将棋連盟が2022年1月26日に定めた臨時対局規定に則(のっと)り、反則負けという判定(以下「本件判定」といいます。)を受けました。

 本件判定に対し、私は、臨時対局規定第4条が準用する対局規定第3章第8条第6項に基づき、不服申立てを提訴いたします。



1 はじめに

 はじめに、当該対局をご観覧くださっていたファンの皆様、スポンサーの皆様、また対局を整えていただきました関係各位の皆様に、最後まで対局を行えない事態となってしまい、大変申し訳なく感じております。本意ではございませんでしたが、このような事態となりましたことを深くお詫(わ)びいたします。

 対局中、深い思考に入っていく中で、盤面に集中するあまり、盤面以外に関して意識が及ばず、ある一定の時間マスクを着用できていなかったことは事実でございます。マスク不着用の状況が続いたことにより、結果として対局相手の集中力を削(そ)ぐような影響があったとすれば、大変遺憾であり、対局相手であった永瀬拓矢王座にもご迷惑をおかけしたことを心よりお詫び申し上げます。

 しかしながら、本件判定は、臨時対局規定の解釈を誤って適用されたものであり、かつ、著しく相当性・公平性を欠いたものであると考えているため、本件の不服申立てをいたしました。

 以下、不服申立ての理由を説明いたします。

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2 状況の説明

 私は、2022年10月28日のA級順位戦の対局において、終盤の局面に差し当たって、盤面に集中するあまり、盤面以外に関して意識が及ばず、ある一定の時間(合計約1時間に亘(わた)り)マスクを着用できておりませんでした。そのこと自体は事実であり、深く反省いたします。

 しかしながら、その行為は故意によるものではなく、盤面に集中することによる失念・過失によるものでした。今まで私は、対局において長時間マスクを着用しなかったことはなく、今回、初めてマスク着用を長時間失念してしまいました。

 本件のマスク不着用が、故意によるもの、すなわちマスク着用を拒否する意思を表したり、対局相手に対する何らかの効果を期待して行ったものではないことをご理解いただきたく、ここに改めて申し述べます。
3 本件判定の問題点

(1)臨時対局規定の解釈を誤っていること

 本件判定は、対局中、一時的な場合を除き、マスク(原則として不織布)を着用しなければならず(臨時対局規定第1条)、対局者がその規定に反したとき、対局規定第3章第8条冒頭各号の違反行為に準じる反則負けとする(同第3条)という規定が適用された結果下されたものです。

 しかし、上記規定は、故意による規定違反だけでなく、過失による規定違反も含むのかについて明文化されていません。


 日本国の法律(刑法、道路交通法等)において、過失犯を処罰する場合には、明文を置くこととなっているように、規定に過失犯についての明文がない場合には、原則として故意犯のみを処罰する趣旨であると解釈されるべきです。なお、対局規定第3章第8条冒頭各号の反則行為(二歩など)は、過失について明文化されておりませんが、将棋のルールの性質上、それらの反則行為は当然過失によるものを念頭においているため、あえて明文化する必要がないのであって、将棋のルールと関連性のない臨時対局規定のマスク着用ルールを、他の反則行為と同様に、過失によるものを当然に含む規定と解釈することはできません。

 臨時対局規定が制定された経緯として、新型コロナウイルス感染症が蔓延(まんえん)したことにより、日本将棋連盟が棋士に対してマスク着用を推奨することとなり、大多数の棋士がマスクを着用して対局をしていましたが、一部の棋士があえて(故意に)マスクを着用しないで対局に臨むといった事態が生じていたため、マスク着用をルール上義務付けたという経緯があります。

 したがって、臨時対局規定の趣旨は、あえてマスクを着用しないという事態を防止するものであって、故意による違反を制限する規定であり、過失による違反を含まない規定であると解釈されるべきです。そして、マスク不着用が故意によるものであるのか、過失によるものであるのかの判定については、一度マスク不着用を指摘し着用を促せば、その後のマスク不着用は故意によるものだと推認できるため、その後に反則負けと判定すればよいはずです。

 よって、過失によるマスク不着用に対して、即時に反則負けを判定した本件判定は、遺憾ながら、臨時対局規定の解釈を誤った処分であるといわざるを得ません。

(2)相当性を欠く判定であること

 一般的に企業等において、懲戒処分の内容が、違反行為の性質・態様、処分対象者の情状等の事情に照らして重いと判断される場合には、仮に文言上懲戒事由に該当したとしても、懲戒権の濫用(らんよう)と判断されて懲戒処分は無効となるのであり、これは相当性の原則として広く認識されているものです。

 失念によるマスク不着用によって、棋士にとって何よりも重要な、対局を継続する権利を奪われ、マスク着用を促されることもなく、直ちに反則負けとした本件判定は、失うものの大きさと違反行為の内容との間のバランスを著しく欠くものであったと考えております。

 通常の対局もさることながら、順位戦の対局の重要性と一局の重みは棋士であれば誰しもが理解するところであると思います。そのように重要な対局の権利の剥奪を行う場合は、状況を慎重に考慮してなされるべきであり、本件判定が、故意か過失かを問わず、かつ状況の改善が可能であるにも関わらず何らの注意も一度もなされないままで下されたのは、あまりに酷であり、この規定の本来のあり方(感染拡大防止のための牽制(けんせい)的な条項)と乖離(かいり)していると認識しております。

 また、現在、日本国政府においては、感染防止のためのマスク着用について、その扱いを緩和している最中であり、本人の意に反してマスクの着脱を無理強いすることにならないよう、丁寧な周知をすべきである、といった方針を取っています(厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部「マスクの着用に関するリーフレットについて(更なる周知のお願い)」)。

 公益社団法人たる日本将棋連盟が、その方針に反して、強制力をもってマスクの着用を強く義務付けるような本件判定は、相当性を欠く処分であり裁量を逸脱し無効であると判断されるべきです。臨時対局規定は抑制的に使われなければならず、注意・警告をしたにもかかわらずあえてマスクを着用しない場合等に適用されるべき規定と考えます。
4 臨時対局規定そのものの問題点

(1)基準が不明確で、公平性が担保されていないこと

 臨時対局規定は、他の反則行為(二歩など)と異なり、反則負けとなる基準が明確なものではありません。マスク不着用が一時的なものか否か、その不着用の理由、故意の有無など、事実の評価を要する判断を重ねた結果適用されるべきものです。して、判断権者は、原則として立会人が担当しますが、立会人が存在しない対局(本件もこれにあたります。)の場合、棋戦運営部担当理事や他の業務執行理事がその任を代行することになります(臨時対局規定第4条、対局規定第3章第9条第4項)。

 したがって、日本将棋連盟が2022年10月31日付で発出した「順位戦における裁定について」でも触れられているとおり、本規定は、判断権者が対局者と師弟関係にあったり、同じ順位戦のなかで順位を争っている者となる可能性を制度上内包しているものです。また、師弟関係でなくとも、対局者と判断権者が、個人的に交流が深いなどの事情も含めれば、判断権者としての公平性が疑われる場合は枚挙に暇(いとま)がありません。

 よって、判断権者による判断内容によっては、外部から見て恣意(しい)性が疑われる危険性があるため、本規定の基準自体をより明確なものに修正し、恣意性を排除する必要があると考えております。

 明確な基準として、例えば、マスク不着用の合計時間、注意をする回数タイミング等を定めることが考えられますし、反則負けとすべきかの即時の判断が困難である場合に備えて、対局自体は終局まで行った上で事後的に反則負けの存否を判断するなどの規定を定めることも検討されるべきと考えます。

(2)規定の本来の目的との乖離が生じていること

 臨時対局規定の趣旨は、コロナ禍において、リスク管理を行いながら、滞りなく対局が行われるよう、一定の感染抑制効果があるマスクの着用を義務付けるものであると理解しております。

 そうであるならば、マスク不着用で一定時間経過した場合には、まず第1に直ちに着用を促し、いたずらに感染が広がることを防ぐこととなるような規定であるべきです。

 しかしながら、本規定は、マスク不着用のまま一定時間の経過があった場合、対局相手はそのまま時間を経過させれば、規定により自らの勝ちとなる可能性が高くなるため、勝敗がかかっている対局者心理からして、着用を促さない方が得であるというインセンティブが働く結果、コロナ感染を広げるリスクがあるといった、非常に危険な規定になっていると感じます。

 したがって、本規定の趣旨に適(かな)うルールとするためにも、マスク不着用を指摘しマスク着用を促すルールとなるよう、規定の改善を望みます。また、本規定の本来の目的であるコロナ感染防止に重きをおくのであれば、そもそも、マスク不着用と対局の勝敗を直接的に結びつけるということが正しいのか、本来の目的に沿った形で、滞りなく対局を進められる方法や枠組みも含めて広く検討がなされるべきであると考えます。

(3)臨時対局規定の改廃基準が示されていないこと



 現在の日本国においては、法律上マスク着用を強制されるものではなく、マスク着用に関する政府方針も時期とともに変化している状況ではありますが、感染拡大防止の観点から、一定の自由を制限する規定が必要であることは理解しており、何ら反対するものではなく、可能な限りルールを遵守(じゅんしゅ)したいと考えております。

 しかしながら、今後も政府の方針が変更されることが予想される中、「臨時」対局規定にも関わらず、適用期限に明確な定めがなく、半年ごとに見直す、政府の方針にしたがって柔軟に協議する、等の補則がなく、規定改廃の基準が示されていないように見受けられます。一定の自由を規定にて制限する場合には、その制限が必要最小限であるかどうか、現状の社会の状況を鑑みて適切な運用かどうかを適宜判断することが必要であると考えます。

 そのため、社会状況に併せて適宜判断の機会を設けるよう、臨時対局規定を改正いただきたく存じます。



5 常務会に求める裁定

 以上に述べた理由により、下記裁定を常務会に求めます。





(1)反則負け判定の取り消し

(2)対局のやり直し

(3)臨時対局規定の適用基準の明確化、規定の趣旨に反するルールの修正

(4)臨時対局規定の改廃時期・条件の明確化
6 おわりに

 私は棋士として、その時出せる最善の努力と決意を持って対局に臨んで参りました。

 ファンの皆様、スポンサーの皆様、関係各位の皆様に、たとえ結果が伴わなくとも、力のこもった将棋を見せたいと思い、また、自分自身の目標のためにも、一手一手に心血を注いで指してきたことについては全く一点の曇りもございません。

 本対局において、自らの失念により対局相手に対して不安を抱かせるに至ったのであれば、私自身の注意不足、その至らなさ、配慮不足を痛感するところでございます。しかしながら、一棋士として、ただ盤面のみに全ての神経を集中させ、それ以外のことに意識が及ばないほどに懸命に盤に向き合ったこと、それ自体に関しては、どうしてもそれが間違っていることとは思えません。

 日々多くの棋士がそのような矜持(きょうじ)で対局に臨んでいるものと思われ、それこそが我々棋士が皆様に示すことができる姿勢であり、その結果をもって楽しんでいただければ、それが何よりの喜びであり、やり甲斐(がい)であると感じております。

 その点からしても、本対局を最後まで皆様にお見せすることができなかったことが非常に悔やまれてなりません。また私自身としてもこの対局を最後まで指させてもらいたかったというのが偽らざる正直な気持ちであり、途中で対局の権利を剥奪されたことは、深い悲しみを持って受け止めております。

 棋士であれば、深い思考に入っている時にどのくらい時間がたったか、時間感覚を失うほど集中してしまった経験が誰しもあると思います。その行為が、臨時対局規定により直ちに反則負けとなることは、どうしても正しい解釈・運用のあり方とは思えません。

 失った対局は戻ってきませんが、現状のままでは、本来の棋士のあるべき姿勢を萎縮させ、自分自身を含む多くの棋士が、深い熟考に入ることに躊躇(ちゅうちょ)や恐れを感じてしまうのではないかと考え、本規定を本来の棋士の使命を果たすことを妨げない形で、公共の福祉にも適うものに改善していただきたく、提訴を行うことを決意いたしました。

 対局の権利を剥奪されるということが我々棋士にとってどんなに重いものか、常務会の皆様、理事の皆様は重々承知であるかと存じますが、今一度、全ての棋士が曇りない気持ちで盤に臨み、ただただ良い将棋を指したいという気持ちを萎縮させることなく、最大限棋士の実力を発揮できるような規定とその解釈・運用がどのようなものであるのか、賢明なご判断をいただきますよう何卒(なにとぞ)よろしくお願い申し上げます。



2022年11月1日

日本将棋連盟所属棋士

佐藤天彦

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