ファイヴコンポーネンツというのはPCS(演技構成点)のことです。「スケーティング技術」「つなぎのフットワークと動作」「演技と実行」「振り付け/構成」「音楽の解釈」の5項目なので、ファイヴコンポーネンツと呼ばれます。
したがって、ヴィクトルのセリフは、「ジャンプを失敗しまくってTES(技術点)は低かったはずだけど、PCSの高さで補うことができてよかったね」みたいな意味になります。
フィギュアスケートではジャンプの種類と回転数によって基礎点が決まります。例えば、トゥループの場合は3回転なら4.1点で、4回転なら10.3点です。ルッツの場合は3回転なら6.0点で、4回転なら13.6点です。このように3回転と4回転では6点以上の差があります。
で、それぞれの選手が何回、4回転ジャンプを跳んだかというと、勇利は2回、ギオルギーとピチットは1回、レオとクリストフは0回でした。クリストフの表現力は素晴らしかったですが、それはほかの選手も同様だったため、4回転ジャンプの回数が強く順位に影響したという感じです。
なお、グァンホンくんが6位な理由は演技の大部分が省略されたため謎です。4回転を1回は跳んでいるし、アメリカ大会で3位なので実力もあるはず。もう少し順位が上でもおかしくないのですが、画面に映らなかったところで何かミスをしたのかも。
グランプリファイナルに参加できる選手は、グランプリシリーズに参加した選手のうち成績上位6人だけです。グランプリシリーズは全6大会ありますが、1人の選手が出場できる大会は2大会までなので、2大会の合計得点で競うことになります。大会ごとに得られるポイントは、順位に応じて次のように決まります。
1位:15ポイント
2位:13ポイント
3位:11ポイント
4位:9ポイント
5位:7ポイント
6位:5ポイント
7位:4ポイント
8位:3ポイント
ピチットくんの場合はすでにアメリカ大会で4位なので9ポイントを獲得しています。もし中国大会で2位になれば、13ポイント獲得して、合計で22ポイントになります。この22ポイントという得点で、成績上位6人に入りこめるかどうかが問題になります。
では現実の2015年グランプリシリーズ男子の最終成績はどうなっていたかというと、6位の選手は22ポイント、7位の選手は20ポイントでした。確かに、2位をとればピチットくんはぎりぎりファイナルいけそうですね!
そもそも、ジャンプの得点は、
ジャンプの基礎点 + GOE×係数 - 転倒による減点
という式で決まります。さっきの勇利の場合で実際に計算してみましょう。話を簡単にするため、後半のジャンプの基礎点が1.1倍になるルールは無視します。まず4回転フリップの基礎点は12.3。転倒という最悪の出来栄えですからGOEは-3です。で、4回転ジャンプの場合は基礎点が高いためにGOEに強めの係数がかかるようになっていて、-3が-4に増幅されます。さらに、GOEとは別に転倒による減点が-1です。つまり、計算結果は次のようになります。
12.3 + (-3)×(1.33…) - 1 = 7.3
この計算から分かるように、転倒してもジャンプの基礎点は消えません。トータルではちゃんとプラスになります。だから転倒は致命的なミスというわけではないのです。
回転不足は次のようにジャンプ基礎点に影響を与えるのが特徴です。
0度~ 90度の回転不足:基礎点への影響はなし
90度~180度の回転不足:基礎点が70%に
180度以上の回転不足:回転数の少ないジャンプとして基礎点を計算
では勇利の4回転フリップが100度の回転不足になり、なおかつ転倒してしまった場合、得点がどうなっていたか考えてみましょう。さきほどの計算式の中で基礎点12.3が70%の8.6になるのが違いです。
8.6 + (-3)×(1.33…) - 1 = 3.6
ひどい得点ですね。3回転トゥループの基礎点4.3よりも低いです。もう何のために4回転に挑戦したのか分からなくなるレベルです。
ということで、アナの発言は、「転倒したから減点は免れない。しかし、回転は足りてるから4回転ジャンプの基礎点は守りきっている。これなら何とかなりそうだ。」みたいな意味になります。
これについては、1番滑走だったために観客が試合観戦モードに入っていなかったことが主な原因と思われます。