児童８人が死亡、教師を含む１５人が重軽傷を負った大教大付属池田小（大阪府池田市）事件は、８日で発生から１７年となる。
　事件当時２年生で、重傷を負った女性（２５）は今春、勤務する大阪府内の幼児教育教室で、新しい教室開設にこぎつけた。仕事にやりがいを感じる日々の中、「犯罪被害者を支援する活動にも取り組んでみたい」と考え始めている。
その瞬間だけは覚えていない
　当時のことは、一部を除いて鮮明に覚えている。包丁を持った宅間守元死刑囚が教室に入ってきた。「あっ」と思う間もなく刺された記憶はあるが、その瞬間だけは覚えていない。
　宅間元死刑囚は、２年南組と西組で１２人もの子供を襲った後だった。東組で女性を含む３人の児童を刺し、担任教諭に追いかけられてテラスに逃げたが、さらに教師２人と児童６人を刺し、副校長らに取り押さえられて逮捕された。
　刺された子供たちは、「みんな外へ逃げようと、上の階に向かって階段を上った」という。女性も、刺された友達と２人でふらふらしながら階段を上り、２階にたどり着くと、力尽きて倒れ込んだ。後ろから上ってきた１年生男児も倒れ込んだところで、気づいた上級生が悲鳴をあげ、教師らがかけつけたという。
　へたりこんだとき、どくどくと脈打つ身体から温かい血がどんどん流れていくのを感じた。先生が叫びながらたくさんタオルを持ってきて押さえ、懸命に止血していた。「動いていたら痛みを感じなかったけど、『止まると痛いんだ』と思った」という。眠くはなかったが、「寝てはいけない」と言い聞かせていた。
入院中、励ましてくれたお姉さんたちのような仕事を
　背中を包丁で刺された女性の傷は、腹に達する重傷。２週間入院した。両親は事件のニュースを見せないよう、好きだった「モーニング娘。」のビデオを流し続けていた。一度だけ、ニュースで「殺害された」「８人」という単語を耳にしたが、「殺害」という言葉の意味がよく分からなかった。「８人って、私も入るの？」と母親に聞くと、「そうかなあ」とはぐらかされた。
　誰が亡くなり、けがをしたのか、よく分からないまま学校に戻った。重傷を負った児童の中では「元気な方だった」。順調に進学する中、「心細かった入院中、励ましてくれたお姉さんたちのような仕事をしたい」と思うようになった。
　大学で児童福祉を学び、米国を中心に普及している専門資格の取得を目指したが、不合格。だが、大学時代からアルバイトしていた幼児教育の教室で、正社員として採用された。
　スポーツインストラクターとして担当しているのは、２歳～小学校低学年のクラス。運動機能向上を目指したさまざまなレッスンを指導している。子供たちの成長を肌で感じ、信頼関係も築ける仕事で、やりがいがある。今春、「地元に作りたい」と思っていた新しい教室の開設にこぎつけ、さらに忙しくなった。
不安はまだ残るが「誰かの役に立ちたい」
　「事件に遭ったことをマイナスには捉えていない」が、不安はある。中学生のとき、同級生らがとっくみあいのけんかをするのを見て、過呼吸になった。高校時代、駅で人が倒れたのを見て「助けなきゃ」と思ったが、足が動かなかった。職場でＡＥＤの講習を受けたが正直、「できるだろうか」という不安はある。
　社会人生活も２年目。まだ余裕はないが、亡くなった同級生の親が関わっている犯罪被害者支援活動にも、いつか携わってみたいと思い始めている。「お話を聞いたり、裁判に付き添ったり、ということが自分にできるのか、自信はないけれど…。誰かのお役に立てるなら」。まっすぐな瞳で、力強く語った。
引用元：news.livedoor.com（引用元へはこちらから）