藤井聡太 語録(中学生編) 大人でも知らないような言葉ばかり!
ついに中学を卒業した藤井聡太六段ですが、プロデビューしてからの1年半の間に、『望外』『僥倖』『平均への回帰』『白眉』などと、やけに大人っぽい言葉遣いをして周囲を驚かせてくれました。今後、こんな語彙力豊富な中学生は現れないと思うので、全てまとめて語録として残しておこうと思います!全部で11語を収録!
【1】望外(ぼうがい)
2017年4月4日、デビュー後11連勝を決めて、
藤井四段「(11連勝は)自分の実力からすると望外です。連勝を伸ばせるよう、1局1局指して行きたいです。(今日の対局は)結果は幸いだったが、内容は良くなかったので反省している。まだまだ実力が足りないので、実力を上げて行きたいです。」
引用元:www.shogi.or.jp(引用元へはこちらから)
望外は『望んでいた以上によい結果であること』という意味の言葉。よって、藤井四段の「自分の実力からすると望外」という発言は、「自分はまだ弱く、11連勝などできないと思っていたので、11連勝できたのは想像以上に良い結果です」という意味になります。
負け無しで11連勝もしてしまうと、大人でも慢心してしまいそうなものですが、藤井四段は中学生なのに全然慢心していなかったのです。その後、藤井四段は29連勝という新記録を樹立することになるわけですが、勝っても反省するという謙虚な態度だからこそ、成し遂げられたのだと思います。
【2】茫洋(ぼうよう)
2017年5月2日、デビュー後18連勝中にインタビューを受けて、
藤井四段「序中盤は人間からすると茫洋としていてなかなか捉えづらいですけど、コンピュータは評価値という具体的な数値が出るので、活用して参考にすることでより正確な形勢判断を行えるようになると思います。」
引用元:book.mynavi.jp(引用元へはこちらから)
茫洋は『広々として限りのないさま』を表現する言葉です。藤井四段は「序中盤は茫洋としていて」と言っているわけですが、おそらく、「序中盤の局面はそこから先の変化が無数に考えられるため、有利不利を判断しづらい」という意味だと思います。
実際、将棋の定跡書を読んでいると、端歩の突き合いが入っているかどうかという細かな違いで局面の評価が全然違っていて驚くことがあります。本格的な戦いが始まる前の局面を評価するのは簡単なことではないのです。
個人的には、将棋の局面を評価する話で茫洋という風景や人柄を表現する言葉を持ってきたところが注目ポイントです。後に羽生さんが藤井四段の棋風について「パターン認識能力が非常に高い」と表現するのですが、藤井四段はそういう、局面をイメージで捉えるようなところがあるのだと思います。
【3】僥倖(ぎょうこう)
僥倖は『偶然に得られた幸運』という意味の言葉。よって、藤井四段の「20連勝できたのは僥倖」という発言は、「自分が強いから20連勝できたのではなく、たまたま幸運が連続して、20連勝できただけ」という意味になります。
確かに将棋はけっこう運の要素が影響しやすいゲームで、終盤に迷った末に適当に「えいやっ」と指した手が好手で運良く勝つなんてこともよくあります。そういった現象を意味する「指運」という言葉もあるほどです。しかし、そうは言っても、20連勝というのは明らかに偶然の範囲を超えています。ある程度、幸運な面があったにしても、強いからこそ勝てたという面も絶対にあったはずです。それなのに藤井四段は僥倖と表現したのですから、恐ろしいほどの謙虚さです。
なお、僥倖といえば、『賭博黙示録カイジ』というギャンブル漫画の主人公がよく使う言葉として有名ですが、藤井四段は漫画はほとんど読んだことが無いようなので、その漫画経由で覚えたわけではなさそうです。
【4】醍醐味(だいごみ)
2017年6月17日、デビュー後27連勝していたとき、インタビューを受けて、
藤井四段「たくさんの候補手があるが、その中で最善手は一つしかない。それを探すのが面白いし、多彩な駒の特性を生かして進めるのも醍醐味の一つ。」
引用元:allatanys.jp(引用元へはこちらから)
醍醐味とは『本当の面白さ、神髄』という意味の言葉。よって、藤井四段は「将棋の本当の面白さはいくつもあるけど、そのひとつは多彩な駒の特性を生かして最善手を考えることだよ」と言っていることになります。
個人的には「駒の特性を生かさないといけないのが将棋の難しいところ」とか「勝つためには駒の特性を活かすのが大事」などと言うのではなくて、醍醐味と表現したのが注目ポイントと思います。藤井四段にとっては将棋は難しいものではなく、面白いものなんですね。そういう意識だからこそ、常に将棋に向き合うことができて、どんどん強くなっていけるのでしょう。
将棋の醍醐味を言葉で説明できているところも、なにげないようで、けっこう凄いことだと思います。将棋を面白いと思っている人は多いでしょうが、それを言葉にして他人に説明せよと言われたらけっこう困るのではないでしょうか。「頭をフル回転させて手を読むのが楽しい」とか「勝つとスカッとするんだよ」などと、他のゲームにも当てはまってしまう回答になるのが普通と思います。その点、藤井四段は「多彩な駒の特性が~」と将棋ならではの面白さを捉えてるわけで、さすがと思います。
【5】冥利(みょうり)
2017年6月21日、28連勝を決めた後、記者会見で「藤井四段の扇子とファイルが売り切れ状態だが、自分でも使っているか?」と聞かれ、
藤井四段「私自身が自分のを使うのは恥ずかしい。もっと将棋に興味をもっていただければ、私も冥利につきるかという感じです」
引用元:www.sankei.com(引用元へはこちらから)
冥利は『良い行いの報いとして得られる幸福』という意味です。よって、藤井四段の発言は「私が棋士として頑張ってきたことで、みなさんが将棋に興味を持ってくれたのなら、それは棋士として幸せなことです」みたいな意味になります。
自分のグッズが売り切れてると知れば、普通の中学生ならば舞い上がったり驕り高ぶったりしてもおかしくなさそうなものですが、藤井四段は全然そういう反応はしていなかったのです。一般人の反応に惑わされない、芯の強さみたいなものを感じます。
グッズの売れ行きが良いことを自分自身に関連付けて考えるのではなく、「将棋に興味を持ってもらえた」と将棋界に関連付けて考えるところも凄いです。中学生なのに、将棋界全体を盛り上げていこうという意識を持っているわけです。中学生のコメントと言われるより、連盟の役員のコメントと言われるほうが納得できてしまう気がします。
【6】平均への回帰(へいきんへのかいき)
平均への回帰というのは「試行を繰り返すほどに、得られる値の平均値は真の平均値に近づいていく」という統計学的な現象を表す言葉です。
たとえば、サイコロを振って、出た目の平均値を計算するとします。2回振った時点では運良く連続して6が出て、平均値6になることもありえます。しかし、その後も100回、1000回とサイコロを振り続けていけば、その平均値は理論的な期待値である3.5に近づいていきます。これが平均への回帰です。
ということで、藤井四段の発言は「自分の連勝はサイコロで6が連続して出たようなもの。これからも対局が続いていけば、本来の勝率に近づいていくはず」という意味になります。
実際、29連勝を達成した後、藤井四段はやや調子を崩し、勝率が下降しました。しかし、その後また調子を取り戻し、朝日杯優勝を成し遂げました。不調が一時的なもので済んだのは、藤井四段があらかじめ『平均への回帰』を想定し、心の準備をしていたからなのだと思います。
【7】流動性知能(りゅうどうせいちのう)
2017年7月7日(29連勝が止まった後)、インタビューで進学について聞かれ、
藤井四段「高校は15歳から18歳の3年間になりますけど、18歳から25歳が流動性知能のピークのようで大事な時期なので、難しい選択になるかなと思います」
引用元:book.mynavi.jp(引用元へはこちらから)
流動性知能というのは心理学者キャッテルが提唱した概念です。キャッテルは知能は流動性知能と結晶性知能の2つに分類できるとしました。流動性知能は新しい場面に適応するための知能で、具体的には推論力や計算力など。一方、結晶性知能は過去の経験にもとづく知能で、具体的には知識、日常習慣、言語など。藤井四段が言っているように、流動性知能は18歳から25歳にピークを迎え、その後、低下していきます。
藤井四段としては、自分の流動性知能が優れているうちに将棋に打ち込んで結果を残したい、という考えだったのでしょう。どんな仕事に就くかすら決めていないのが中学生としては普通だと思うのですが、藤井四段は将棋の道を行くと決めていて、さらに自分のピークを見据えて計画まで立てているのだから驚かされます。
【8】矜持(きょうじ)
2017年7月7日、インタビューで、昨日対戦して勝った中田七段について聞かれ、
藤井四段「私自身は戦法に対してこだわりのあるタイプではないので、中田先生の三間飛車と対戦できるのが純粋に楽しみでしたし、ひとつの戦法を貫く先生の姿勢には棋士としての矜持を感じる部分がありました」
引用元:book.mynavi.jp(引用元へはこちらから)
矜持は「プライド、誇り」という意味。「プライドの高さを感じました」とか「誇りを持っているんだなと思いました」と言ってしまうと、なんとなく相手を高慢な人間として扱っているような、嫌味な感じに聞こえますが、「矜持を感じました」は嫌味のない言い方で良いなと思います。藤井四段は年輩の棋士から可愛がられている印象がありますが、そういう嫌味の無い言葉遣いだからこそ、安心感があって、愛されやすいのかもしれません。
対局して負かした相手を見下すのではなく、「ひとつの戦法を貫いている」などと、自分に無い良さを見出そうとする姿勢も立派です。そうやって、相手の良いところを吸収していく姿勢だからこそ、急成長できているのでしょう。
【9】幾年(いくねん)
幾年は『ここ数年』という意味。よって、藤井四段の発言は「ここ最近の数年間で最高の成長を遂げられるよう、来年も頑張りたい」といった意味になります。
29連勝したのにまだ自分の強さに満足せず、さらなる高みを目指そうとする志の高さがすごいです。そして、以前より強くなれればそれでよいと考えるのではなく、成長するペースを今までより上げていきたいという考えには驚愕させられます。これから先、数年経った頃には、藤井四段は一体どれほどの強さになっているのでしょうか。
【10】節目(せつもく)
藤井四段が節目を『ふしめ』ではなく、『せつもく』と発音したため、「覚え間違いでは?」と話題になりました。しかし、どちらの発音でも間違いではありません。むしろ、発音によって意味が変わるのがポイントです。『ふしめ』ならば『ものごとの区切り』という意味になり、『せつもく』ならば『小分けにした一つ一つの箇条、細目』という意味になります。
つまり、藤井四段は「これから何百勝と積み重ねていくことになるので、50勝は大きな区切りではなく、小さな区切りに過ぎない」と考えていたことになります。言葉を適切に使い分けることができているのも凄いですし、50勝を『せつもく』と言い切ってしまう目標の高さも凄いです。
【11】白眉(はくび)
2017年12月7日、羽生と渡辺の第30期竜王戦を解説し、羽生について、
藤井四段「七番勝負では全体的に積極的な指し回しが目立ちましたね。特に第4局は『白眉の一局』だと思います。」
引用元:2017年12月7日の読売新聞朝刊
白眉は『同類の中でもっとも優れたものや人』を指す言葉。中国の蜀書(馬良伝)に記された『馬氏の5人兄弟の中で眉の白い馬良が最も優れていた』という故事が由来となっています。よって、藤井四段の発言は「第4局は七番勝負の対局の中でもっとも内容の優れていた1局だったと思います」という意味になります。
白眉のような難しい言葉を使って文章を書けば、高い評価が得られる可能性もある一方で、使い方を間違えて恥をかくリスクもあったはずです。にも関わらず、藤井四段は大勢の人が読むであろう新聞記事で、堂々と、そして、適切に難しい言葉を使ってみせたのです。その度胸の良さと、語彙力への自信には驚かされます。
なぜ難しい言葉を知っているのか?
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