2024年03月18日更新
将棋 shogi 藤井聡太

観戦者に衝撃を与えた、藤井聡太の妙手・名手 10選(中学生編)

2018年3月に中学校を卒業した藤井聡太六段ですが、プロデビューしてからわずか1年半の間にいくつもの妙手(名手)を見せてくれました。この記事では、その中から『中田戦の5五歩』や『広瀬戦の4四桂』など、特に衝撃的だったものを10手選び抜き、1手1手、なぜ衝撃的だったのかを解説していきます。

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記事の形式について

藤井聡太六段が中学生時代に放った素晴らしい手の中から10手を選び抜き、衝撃度の低いものから順にランキング形式で紹介していきます。衝撃度は私が主観的につけたもので、すごく衝撃的だった手が100点になるよう調整しています。記事の中で使用している局面図において、相手の最終手は黄色で、藤井六段の最終手は赤色で表示するようにしています。棋士の肩書はその対局時点でのものです。

衝撃度30 澤田真吾六段戦の4五銀 (2018年1月14日 朝日杯本戦1回戦)

出典:39手目の局面
図は澤田六段が▲2二歩と桂取りに歩を打ってきたところ。△同金と応じるのが普通ですが、▲2四飛△2三歩▲3四飛の展開が予想され、銀取りと▲3一角の狙いがあって後手大変です。かといって放置して桂馬をタダ取りされるのは痛いです。△3三桂と逃げるのも▲同桂成で先手の桂を捌かせることになり、▲2一歩成も残っていて嫌です。

一体どうやって藤井四段は事態の収拾を図るのだろうと気になる局面でしたが…。
出典:40手目の局面
なんと藤井四段が指したのは、桂取りを放置して相手の桂を食いちぎる攻めの手、△4五銀でした!守りの銀と攻めの桂を交換する自爆みたいな手に見えますが、▲同銀のあと、△4七歩と打ったのが鋭い一手でした。△3八角があるので▲同金とはとれず、澤田六段は仕方なく▲3八金と逃げましたが、△4六桂と追撃されてあっというまに澤田陣が崩壊寸前になりました。

4五銀は、藤井四段の『敵陣の隙を捉える嗅覚の良さ』と『攻め合いの速度感覚の正確さ』が凝縮された一手だったと言えるでしょう。

衝撃度40 増田康宏四段戦の9七玉 (2017年3月12日 炎の7番勝負第1局)

出典:66手目の局面
図は増田四段が飛車取りがかかった忙しい局面で香を走って藤井玉に王手をかけてきたところ。先手が普通に▲8七歩と打つと、△同香成▲同金△7七香成▲同桂と精算して、△7九角と強引に飛車成りを狙っていく展開が予想されます。

別にその展開でも右辺に逃げていけるので先手が悪いわけではありませんし、飛車と香2枚が直射している状況では多少攻め込まれるのは仕方ない、と思われましたが…。

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出典:67手目の局面
藤井四段が指した一手は受けるのではなく、避ける▲9七玉でした!玉のすぐ横を飛車と香が直通しているあまりにも危なかっしい形ですが、意外にもこの状況で後手からの有効打が無く、ぎりぎりしのいでいるのです。むしろ、飛車取りがかかっている後手のほうが困っており、その後も△8四飛▲8五歩と攻め駒を攻められる展開になり、増田四段が敗勢に陥りました。

藤井四段が『自玉の不詰を読み切る力』と『自分の読みを信じて危険地帯に踏み込む度胸の良さ』を持っているからこそ指せた一手が▲9七玉だったのだと思います。

衝撃度50 竹内雄悟四段戦の1五歩 (2017年5月18日 加古川青流戦2回戦)

出典:91手目の局面
図は竹内四段が金を打って、藤井陣を崩しに行ったところ。解説の深浦九段・屋敷九段は「藤井が有利だが、竹内陣が鉄壁なため、竹内の攻めに丁寧に対処しないと危ない」と説明し、候補手として手堅く守る▲5一歩を挙げていました。

しかし…。
出典:92手目の局面
藤井四段が指した一手は△1五歩でした!緊迫した場面でのんびり端歩を突くという信じられない対応で、解説者も驚いていました。しかし、その後、▲4二金△同玉▲2二銀△1六歩と進むと、△1七角と打つ手が王手をかけつつ5三~6二に利かす攻防手になることが発覚(取ると詰む)。竹内四段は一旦攻めを中断して、▲1八歩と受けざるをえず、藤井四段が優位を拡大していきました。

つまり、△1五歩は単なる攻めの手ではなく、将来の△1七角を見越した、価値の高い攻防手だったのです。『攻防のバランス感覚』と『深い読み』を併せ持つ棋士だからこそ指せた一手と言えます。

衝撃度60 中田功七段戦の5五歩 (2018年1月11日 竜王戦5組ランキング戦1回戦)

出典:35手目の局面
図は△6五桂と跳ねさせないために、中田七段が7八にいた飛車を6八に移動させたところ。中田七段が得意とするコーヤン流三間飛車の定跡形のひとつです。

藤井四段は速攻が好みのようですが、そうは言っても、ここで△8六歩と行くのは、▲同歩△同角▲8八飛△8五歩▲6六角となって、先手からカウンターで端攻めを狙われてしまい、いまひとつです。よって、後手としては中途半端な穴熊を強化すべく、△4一金あるいは△5三銀とするのが普通です。きっと藤井四段もそう指すはずと思いきや…。
出典:36手目の局面
なんと藤井四段が指した手はいきなり突っかけていく△5五歩でした!▲同歩でタダに見えますが、それは△8六歩▲同歩△8六角▲8八飛△7七角成の強襲が成立します。突き捨てた効果で△5六歩打▲同銀△6六馬と王手銀取りをかける筋や、△5五馬と好位置に引く手が生じているのが大きいのです。かといって、▲同歩と取らないと、△5六歩▲同銀と形を乱され、角で王手がかかりやすい形になってしまいます。

そう、△5五歩という何気ない手で序盤早々に先手が困っているのです。それはつまり、もし今後有効な対策が見つからなければ、コーヤン流三間飛車という戦法が絶滅することを意味します。△5五歩は藤井四段が将棋の歴史を変える可能性を持った存在だと証明した一手と言えます。
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衝撃度70 梶浦宏孝四段戦の5四香 (2018年2月1日 C級2組順位戦9回戦)

出典:77手目の局面
図は梶浦四段が▲3三歩と叩いたところ。本当は▲5七金として成桂を取り除きたいのですが、単にそう指すと、△5四香のカウンターが嫌。なので、金を叩いて3三に呼び込んで▲3三馬と切れるようにしようとしています。

後手としては△同金が自然ですが、馬切りを警戒するなら、△2二金もありえるかなというところ。まあなんにせよ、歩で金が狙われているので何かしら対処が必要……のはずだったのですが…。
出典:78手目の局面
なんと藤井四段が指した手は、金取り放置の△5四香でした!信じられない手ですが、▲3二歩成△同銀と進んでみると、馬の処置が難しいのです。馬を逃げるのは△5八成桂と、取れるはずだった成桂を活用されてしまいます。▲5四馬と香をとるのも△同飛で5七の成桂に紐がついてしまいます。よって、馬を見捨てて、▲5七金と成桂をとるしかないのです。

結局、金取り放置の△5四香は、素直な△3三同金▲5七金△5四香▲3三馬△同玉という進行と比較して、玉を3三に引っ張り出されずに済む分だけ得なのです。△5四香は藤井四段の『常識にとらわれない判断力』と『自玉を安全な形に保つ力』が現れた一手と言えるでしょう。

衝撃度80  高野智史四段戦の9七桂 (2017年12月7日 C級2組順位戦7回戦)

出典:116手目の局面
図は高野四段が△8六歩と歩を垂らして、着実な攻めを目指してきたところ。解説の田中寅彦九段は「こういう局面で受けるのは筋が悪い。放置して飛車をとらせる間に攻め込むのが良い。しかし、▲6四銀と打って銀と飛車角を交換してもあまり効果が無い。また、▲3五歩では攻めが続くか分からない」という見解でした。

しかし…。
出典:117手目の局面
なんと藤井四段が指したのは、▲9七桂でした!▲8五桂と相手の攻めの主役である香車をとってしまうのが第1の狙い。そして、▲8五桂によって相手の飛車が横に逃げれなくなったことに目をつけて、▲6四香と打って飛車を詰ますのが第2の狙いです。実戦でもその2つの狙いが決まり、藤井四段が大幅にリードを広げました。

▲9七桂は指されてみればなるほどという攻防手ですが、自玉からも敵玉からも遠い位置に貴重な持ち駒を投じる手なのでなかなか見えません。藤井四段が、トリッキーな桂馬の動きを活かしきる優れた空間把握能力を持っていればこそ指せた一手だと思います。

衝撃度100  斎藤慎太郎七段戦の1一銀不成 (2017年3月26日 炎の7番勝負第3局)

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出典:36手目の局面
図は斎藤七段が△2六歩と打って飛車の侵入を阻止したところ。ここはただで取れる1一の香を取るのが当然の一手です。▲3三銀不成などとするのは△同桂で相手の駒を捌かせるだけなのでよくありません。

問題は1一の香を取るときに銀を成るかどうかですが、不成だと△3四金とされたときに銀が詰んでしまいます。よって、成って1二に引けるようにするのが正解……のはずだったのですが…。
出典:37手目の局面
なんと藤井四段は▲1一銀不成と指してしまいました!斎藤七段は当然△3四金として銀を取りにいきます。しかしそのときに▲2二銀成という凄い手が出ました。▲3二成銀と活用されてはいけないので、斎藤七段は△同角と取るしかありませんでしたが、▲2六飛と走られて、歩切れで飛車が止められずに困りました。

要するに、藤井四段は▲1一銀不成のほうが▲2二銀成として強制的に角を退却させられるから得と見ていたのです。『駒損する変化もためらわずに読む図太い神経』と『押さえ込み特化陣形の欠陥を見抜く目』を持っているからこそ指せた手と言えるでしょう。

衝撃度120 佐々木大地四段戦の3六馬 (2017年10月9日 叡王戦四段戦4回戦)

出典:95手目の局面
図は佐々木四段が7四の銀を飛車で取ってきたところ。この局面は藤井玉に▲7一金からの詰めろがかかっています。よって、何か受けの手を指さないといけませんが持ち駒に金が無いのでなかなか受けにくいです。

このときコンピューターは藤井敗勢と断じており、藤井ファンも諦めムードでしたが…。
出典:96手目の局面
藤井四段が指した手は馬を自陣に利かす△3六馬。対して、佐々木四段はがっちり▲6四銀と打ち、やはり藤井敗勢かと思いきや、そこで藤井四段は△5八馬。なんとなんと、それで佐々木玉が詰んでいて、大逆転!△3六馬は密かに即詰みを狙う恐るべき一手だったのです!

後に、△3六馬のときに佐々木四段が▲7三飛成とすれば藤井玉が詰み、▲6四金でも佐々木玉が詰まないので佐々木勝ちだったと判明しました。しかし、両者秒読みに入っていたので、読み切るのは難しい面がありました。藤井四段の『執念』と『プロの中でも抜きん出た詰将棋の力』が逆転を呼び込んだと見るべきでしょう。

衝撃度150 広瀬章人八段戦の4四桂 (2018年2月17日 朝日杯決勝戦)

出典:92手目の局面
図は藤井五段が敵玉周辺で駒を精算したところ。敵玉の守備駒を除去することができましたが、攻め駒不足なのですぐには捕まえられません。しかし、だからといって、▲3七金と角を補充するのは、△4九飛成でたちまち自玉が大ピンチ。何もしなければ△4八角成があるので、のんびりもしていられません。

広瀬八段が巧みに角を使って形勢を挽回しているのでは?と見られていましたが…。
出典:93手目の局面
藤井五段の指し手は驚愕の▲4四桂!!持ち駒が少ない状況で桂をタダでプレゼントするなんて、何を考えているんだと思うところです。しかし、この桂を△同飛と取ると▲4五歩と打たれて飛車取りがかかると同時に、3七の角も取れる状態になってしまうのです。大駒をとられてはまずいので、広瀬八段は△2六角成と辛抱しましたが、藤井五段は▲3二桂成と、金の補充に成功し、そのまま広瀬玉を寄せ切りました。

歩の連打で飛車の利きを止める手筋は多くの人が知っていますが、それを桂でやってしまったのが藤井五段の恐ろしいところ。とんでもない応用力です。

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まとめ作者